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  • Kaori Higashide

精神科医はAIに職を奪われるのか

何年も前のことです。たまたま乗ったタクシーの運転手さんが、

「車の自動運転の技術が進んできているから、将来的には私の仕事は機械にとって変わられるんだと思うんですよ」

と話されていました。それから何となく、精神科医はどうなるかなと考えていました。

AI(人工知能)の精神医療導入に関する研究もありますが、そういった専門的な話ではなく、いち臨床医の雑感から、精神科医は診察室でいったい何を行っているのかをぼんやり考えてみた、というお話です。


まず診断について、国際的な診断基準(ICDやDSM)があります。しかし、それだけで判定できるのなら、ごく単純なYES NOの質問で決められますが、そう単純な話でもありません。診察室に入ってこられた時から診察時の、歩き方などの動作、会話のスピードや量、表情や身振り、会話のまとまり、質問意図の理解など、患者さんが訴える症状以外の部分も診察しています。

つまり、同じ「気持ちが落ち込みます」でも、表情なくぽつりと話される場合と、ハキハキと状況をお話される場合は、違う意味を持ちます。そして、現時点での症状のみではなく、経時的な変化やそれまでの人生で経験されたことなど心理社会的な背景にも考慮が必要です。

そのため、教科書的な知識だけでは診断はできず、学生から研修医を通して、上級医の診察に同席して、多くの患者さんを知ることで学んでいきます。

画像診断や血液検査などで診断ができないか、世界中で研究がされていますが、他の科と比べて、マーカーとなるものが少なく、現時点では問診が診断の中心です。


AIは、短時間に大量のデータを取り入れることや、経験したデータを分析することが、ヒトより得意でしょう。診察時にノンバーバル(言葉ではないもの)の部分がどう診断に影響しているかを解明していくことは必要だと思われますが、これは将来的には可能になるものかもしれません。


次に、ヒトらしい「共感」について、これは機械に負けたくないな・・と思いますが、AIの方が優っているという結果の研究もあるようです。


うすうすお感じになっている方もおられるかもしれませんが、私が精神科医なので、なんとかAIに奪われることは「ない」という結論を探そうとしている・・かもしれません。


治療について、薬物療法については、もしかするとAIの方が優れることがあるかもれません。ただし、治療は薬物療法だけではなく、精神療法やリハビリテーションも大切です。精神科医は他の機関につながるとっかかりになったりしますが、その際に、ご本人のお人柄等も考慮したりします。

対話内容から、診断や治療が行われている現状において、「このことを話したい」と患者さんが思える関係性というのが、キーになると思います。

あと、時には診察室で、「雑談」に近い話もありますが、そこに患者さんのリカバリーのヒントが見出されることがあります。

どの科も同じなのですが、医者は、「目の前の患者さんが良くなるといいな」というごくごく素朴な気持ちがモチベーションになっている仕事だと思います。

人と人だから生まれる化学反応が、AIでも生まれると思いますが、この辺りの微妙なさじ加減は今の技術ではどうなのでしょうか。


他に、書類が多いことも精神科医の仕事の特徴ですが、こちらはAIがおおいに役立つかもしれません。ただし、紹介状や診断書は、提出先に、患者さんをどうぞよろしく、と愛をこめて書くものと思っているので最終的なチェックは人の手が必要だとは思います。


ヒトが幸せになるために科学技術はあると思うので、課題はまだまだありますが、AIを活用することで患者さんにメリットが生まれるなら、良いことなのではないかと思います。


最後に、冒頭のタクシーの運転手さんは、とても想像力豊かな方で、未来の生活がどう変わるか、人見知りの私には珍しく、話が弾みました。

「だけどねえ、機械じゃなくて、人間に運転してもらいたいって人もいる気がするんだよね。」

と最後に話されていたことは印象的でした。


庭の風景







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