「言葉」という言葉の起源は、はっきり分かっていないようです。古今和歌集の序文の中に、“やまとうたは人の心を種として よろづの言の葉とぞなれりける 紀貫之”とあります。この歌からは、心から生まれる多様な思考・記憶・感情・イメージなどが、つやつやくっきりとした葉となり、無限に広がって深い森になっていく様が浮かびます。
クリニックを始めようと決めてから半年以上、ずっとクリニック名を考えていました。この言葉、いいなあと思いついた時に、携帯電話のメモに書いていたら、何百個かになりました。
泉、緑風、若菜、七海、天の川、すずらん、睡蓮、栞、夕凪、羊雲、友愛、和敬、紬、星彩、星霜、まほろば、みのり、糺、奏、湊・・・。
自分の好きな言葉がたくさん詰まったメモは消さずに残しています。
日々のくらしの中で、常に、頭の中には、言葉が浮かんだり消えたりを繰り返しています。
さて、「上司が、他の人のミスなのに、Aさんのミスと誤解して、きつく注意してきた」というストレスがかかる場面があったとします。
その時に、Aさんの頭に、浮かぶ考え(自動思考)はどのようなものでしょうか。
「まずは上司に説明して誤解を解こう」
なら、気分はそこまで大きくは動かないかもしれません。しかし、
「私のミスじゃないのに、絶対許せない!」
なら、大きな怒りの気分になるでしょう。
「自分がいつもミスしているから、誤解され注意されるんだ」
なら、落ち込んだ気分になるでしょう。
同じ場面でも、人によって、浮かぶ自動思考はそれぞれです。
この違いはどこからくるのでしょうか。
もちろん、その日の体調、女性ホルモンの周期、最近起きた出来事など、色んなことに左右されます。
しかし、考え方のクセに大きく関与するのは、誰もが持っているスキーマ/信念です。
「私のミスじゃないのに、絶対許せない!」
と浮かんだ人には、
「人は私を傷つけ、ひどい目に合わせる」
というスキーマがあるのかもしれません。
「自分がいつもミスをしているから、誤解され注意されるんだ」
と浮かんだ人には、
「自分はダメな人間で、失敗ばかりだ」
というスキーマがあるのかもしれません。
スキーマの形成には、過去に体験した出来事が大きく関わってきます。
気分の落ち込みなどの症状に対して、薬の治療も役に立ちますが、それだけではよくならないことがよくあります。
先ほどのような自動思考やスキーマが関わっている場合には、認知行動療法で、自分に起きていることを理解し、認知や行動を変えてみたり、マインドフルネスなどの方法を知ってもらうといった治療を一緒に行っていくことが有効です。
言葉は、時に人を傷つけますが、希望を与えることもできます。患者さんが語る言葉には、必ず意味があります。言葉を大事にしたい、との思いから、「言の葉」をクリニック名にしました。
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