ヒトは他の動物と違って、脳機能も社会生活もより複雑になった結果、生きていくために求めるものが、より複雑です。
心理学の基礎として学ぶものの中から、マズローの欲求階層説を紹介します。
マズローは、精神分析や行動療法とは異なる、人間の健康的な側面を捉える人間性心理学という立場の人です。
この説では、人間の求める欲求を、5つのピラミッド型で階層的に整理しています。
1.生理的欲求
土台となる最も下にある生きるための食事や睡眠、性行動、排泄などの欲求。
最低限の命を維持するためのものです。
2.安全欲求
暴力や飢えなどの危険を避けたい、経済的に安定したい、安心して過ごせる家に住みたい、などの欲求です。
3.所属と愛情の欲求
何らかの集団に所属したい、その中で役割を得たい、友好的な関係を築きたい、という欲求です。
4.承認と自尊の欲求
他者から認められたい、注目されたい、ほめられたい、という欲求や、自分に自信を持ったり、自分のことを大切な人間だと感じたいという欲求です。
5.自己実現の欲求
自分の理想とする人生を歩みたい、自分ができる成長を続けたい、という欲求です。
当院の「自分らしく自由に生きる」のフレーズに近いものかもしれません。
ざっくり簡単に説明しました。
古典的な概念ですが、このような欲求が満たされない苦しみで、メンタルの不調に至る人も多いのではないでしょうか。
心療内科・精神科には、様々な人が訪れます。
仕事も家も失い、土台となる生理的欲求すら満たせなくなりそうな人、DVなどから逃げようとされている人、生活保護につながったものの孤立した生活の人。
この説の下の階層(1〜3)の部分が不安定な人は、まずはくらしの基盤を整えることが大切だと考えています。
地域の支援者とつながっていなかったり、1人で動くのは難しかったりという場合に、当院では、精神保健福祉士が、必要な社会資源を一緒に考えたり、場合によっては、同行して支援をしています。
そして、上の階層(4〜5)の苦しみの人も外来に多く訪れます。
現在では、この理論には、階層的ではないのでは、などの批判もありますが、個人的には腑に落ちる考え方です。
自分が今、何に苦しんでいるのかを知ることは、そこから変わるための、はじめの一歩になると思います。
