• Kaori Higashide

老先生がくれたもの

ずっと前、まだ若かった頃に、ご高齢の精神科医の先生とお話する機会がありました。

お話の中で、ふと、先生の診ておられる患者さんで、一番長い方はどのくらいですか、と尋ねました。

一番長い方は、レジデントの時から、病院をうつる度に、一緒に転医してくださって、開業後の今もずっとかかられているそうです。つまり、半世紀のお付き合いです。

たくさん大変なことがあった方ですが、今は穏やかに暮らされていると伺い、私が

「先生、すごいですね。その患者さんは先生と会えてよかったですね」と言うと、

「いやいや、すごいのは、その患者さんですよ。僕はその人生に多少ながら関わらせてもらって、会えてよかったのは僕の方ですよ」とおっしゃいました。

若い頃は、医者が病気を治すものだから、最善の治療を提示して、説得するのが役割だと思っていました。もちろんその側面が必要な時もあり、勉強を怠らずに経験を重ねることが必要ですが、ずいぶんとひとりよがりで、思い上がっていたと思います。

今は、患者さんが「よくなる」時というのは、もともと持っている力が回復してくる時なのだと感じるようになりました。


「レジリエンス」という心理学の言葉があります。逆境や困難にあっても、しなやかに回復し再起する力やそのプロセスを指します。

レジリエンスを高めるためには、諸説ありますが、6つの要素が大切と言われています。

1.自己認識 : 客観的に自分を見る力

2.自己コントロール力 : 感情や行動を自制する力

3.精神的柔軟性 : 一つの物事をさまざまな視点から洞察する力

4.楽観性 : おそらくうまくいくと考える気持ち

5.自己効力感 : 自分自身はきっとできると信じる気持ち

6.他者とのつながり : 信頼できる人とのつながり

レジリエンスは、回復して元に戻る力、という概念ですが、「よくなった」患者さんは、元とは違う、新しい力をもっておられると思います。

老先生のおっしゃったことが、少しずつ分かってきましたが、まだまだ私が分かっていないことも多いでしょう。

それを教えてくれるのは、いつも患者さんです。


木漏れ日

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